加賀友禅作家・講師の瀬端 由美子(せばた ゆみこ)先生が思う、後継者不足問題の現状や原因とは?
前回、金丸絵美(かなまる えみ)さんのインタビューから、色々な作家さんのご意見をもっと聞きたい!と思い相談したところ、ご紹介頂いたのは瀬端 由美子(せばた ゆみこ)先生。作家であり、現役講師でもある先生から率直なご意見を伺いました。
この記事では…
- 加賀友禅の後継者不足問題
- 着物としての加賀友禅について
- 加賀友禅を通して、未来に残したいもの
以上の疑問に対して、瀬端先生の素直な考えをお伺いしてます!
瀬端 由美子(せばた ゆみこ)先生のプロフィール
1968年 金沢市生まれ
1987年 石川県立工業高校 工芸科 卒業
同年 金丸修一氏に師事
1997年 作家として独立
2008年 石川県立工業高校 工芸科 非常勤講師
加賀友禅新作競技会、
加賀友禅選抜女流作家新作競技会などで長年にわたり数多くの賞を受賞
着物を着た時の「美しさ」「嬉しさ」「楽しさ」を多くの人に知ってもらえるよう、一つ一つの仕事に思いを込めて制作を続けている。
サティー:金沢市内というか、おそらく加賀友禅の染色を高校生に教える方としては唯一の方…になるのでしょうか。現役の作家であり、講師の立場として日々思われることをぜひ、本日はお聞かせください。よろしくお願いします!
瀬端先生 : 唯一かはわかりませんが、高校生に教えているところはあまり無いように思います。金沢美大さんでは工芸科に「染織*」コースがありますが、加賀友禅の「染色」とは違いますね。あと、市内なら卯辰山工芸工房でも学べますよ。こちらこそ、よろしくお願い致します。
- 染織家は主に、布から作って加色する。
- 染色家は主に、布に柄や色を染める。
加賀友禅の後継者不足の現状についてどのように思われますか?
サティー:前回の絵美さんのお話から後継者不足の原因として、加賀友禅独特の落款制度もあるのではないか。というお話になりましたが、この点についてどの様に感じられていますか?
瀬端先生 : そうですね、若手がどんどん減っているのは確かです。そして、落款制度に関して、私が思うことは…昔から着物を売る時は「問屋さん」を通してだったので、落款制度があることで作家は紹介されやすいというメリットがあった感じていますが、着物が売れない今では問屋さんに頼れないのが現状です。とにかく、着物としての需要が少なすぎるため、成り立たない工房がほとんどです。
また、現在、私が教えている工芸科の染色コースの生徒数は合わせて約20人います。しかし、その中で友禅の仕事を希望するのは1〜2人だけ。とても良い腕を感じるので応援してやりたいのですが、正直、就職先を紹介できるところが無いため、「仕事」として続けることが勧められないんです。
サティー:落款制度は問屋さんに紹介されやすいメリットもあったんですね!?
それにしても…生徒さんを応援してやれないのは辛いですね。ちなみに、どんなところが就職先になるのでしょうか?
瀬端先生 : 加賀友禅作家の就職先は「工房」になります。しかし、今はどの工房も家族や個人のみで経営していたり、すでに抱えている作家を食っていかせるだけでも精一杯なので、新しく若手を育てて自立させる余力が無い状態です。
サティー:なるほど、そうなんですね… 。あ、そういえば!金沢市では伝統工芸の技術継承を支援する補助金制度があったと思うんですが。例えばその制度を利用して「作家」として自立できるまで弟子を育てることは不可能なんですか?
瀬端先生 : 確かに、金沢市には後継者・事業支援制度はあるんですが、支援金の交付期間が3年までなんです。また、月5万円のみなのでそれが生活の足しになるかというと…若手の自立支援には難しいです。また、加賀友禅の場合、今は作家として正式に登録申請できるまでに最低5年は修行時間を要するので、あとの2年をどうするのか?という疑問が出てきます。個人的には期間も金額も補助も加賀友禅の作家を育てる上ではすごく、中途半端な制度にしかならない様に感じています。
サティー:…うーん、難しいんですね。そもそもですが、お金でどうにかなるという問題でも無さそうですね。加賀友禅の文化的価値のあり方、そしてもっと根本的なものに目を向けないといけない気がします…
参照:金沢市伝統技術保存・後継者育成の奨励金一覧
「流通面」での現状と問題点
サティー:では、「流通面」での現状や問題点を教えてください。
瀬端先生 : 今の所ほとんどの工房は問屋頼りから抜け切れておらず、技術継承だけで精一杯です。
やはり、根本的には個人で商品開発〜販路確保をしなければいけないと感じています。
サティー:なるほど〜…「着物&問屋頼り」に危機感を感じられているんですね。着物以外の商品のあり方を見直す必要があるけれど技術継承だけで精一杯なんですね…。それにしても商品の見直し&販路確保は加賀友禅に限ったことではないですね。多くの職人さんやビジネスオーナー全ての方にとっても他人事では無い課題のように感じます。
着物としての加賀友禅のあり方について
サティー:着物に特化した染色技術とはいえ…着物という商品1本だけでは加賀友禅は継承し続けていくのがすごく難しいのはよく分かってきました。
でも、今「着物レンタル」が若い層でも人気の様に思います。この辺りはどう思われますか?
瀬端先生 : 作家として…というか職人としては使って・身に纏って欲しい気持ちが強いですね。レンタルもいいですが、加賀友禅は「手染め」ならではの良さがあります。でも、レンタル着物となるとほとんどがプリント大量生産ですよね。手染めの着物はコストが高く、メンテナンスも大変なのでなかなか買ってもらえないです。
私はどちらかというと作家というより職人肌なんですよね〜…伝わるかな。
サティー:どちらかというと職人肌….あんまり考えたことなかったですがお話をお聞きしていると何となく、2者の根底的な願望に違いがある様ですね。
ちなみに金沢市内では加賀友禅の着物レンタルができるお店もいくつかありますよね。…こういうレンタル店に売り込みにいくのも一つの様な気もするんですけどね。やはり、難しいのかな。
「手書き」ではなく「プリント」の加賀友禅の可能性
サティー:現代のプリント技術を使った加賀友禅のあり方にはどう思われますか?
瀬端先生 : プリントは世の中に魅力的なデザインが溢れているので、プリントにしてしまうと埋もれてしまう恐れがあります。
サティー:商品そのものとデザインの両方で勝負しないといけないということですね。
瀬端先生 : コスト面ではプリントは取り入れないわけには行かないとは思います。しかし、「手書き」の良さは何と言っても自分の手でデザインし、染めたものを手にする喜び・価値があるのだと思います。
加賀友禅を通して、未来に残したいものは?
サティー:最後に瀬端先生にとって加賀友禅を通して、未来に残したいものは何かをお聞かせください。
瀬端先生 :そうですねー…実は私の場合、加賀友禅で未来に残したい大きな目標は達成してしまったんですよ!
サティー:えッ!?何ですか?
瀬端先生 : 実の娘の成人式に自分の制作した加賀友禅の振袖を着せることが大きな夢だったんです。もちろん、娘と相談しながら希望するデザインや色も取り入れました。名前にちなんだ花「菜の花」なども取り入れたり、本人も私自身も大満足の最高の振袖ができたのでもう、やり切った!という所です。笑
個人的には大きな役目を果たしたばかりですが、これからの加賀友禅については自分がどんな役目を果たしていけるのか、探していきたいところです!
サティー:わ〜!そうでしたか!?娘さんに自分のデザインした着物を着せられるとかすごく、夢がある!というか達成感ありそうですね。
よかったらお写真、見せてください!
娘さんも最高の成人式を迎えられて幸せですね。羨ましいというか、母としても尊敬します。
母として、作家として、講師として一歩一歩、夢を現実にされる瀬端先生。これからのご活躍も期待しております。
最後に: 掲載の許可を頂いたので、娘さんへ贈られためちゃくちゃ素敵な振袖&娘さんを公開ッ!
今日も読んでくれてあんやとね!バナークリックで今日のブログランキングが見られるよ~ 🙂